イギリスの貴族達は広大な土地を有し、それを貸して得る収入で悠々の生活をしていた。
お金を稼ぐ要もなく1年の大半は田舎の広大な土地でハンティングに明け暮れ、体を鍛え、 いざ戦争という時には真っ先に戦場に馳せ参じ命を賭けて戦った。
ノーブレスオブリージュ(高貴なる者に伴う義務)、日本の昔の武士道みたいなものがむしろ庶民の尊敬を集めていたのかもしれない。

フランスの貴族はあまりにも自分達と違う彼らの生活態度、そして彼らがロンドンに滞在する一期間正装して着用するスーツ、 一見して無骨なスタイルが彼らにとってこの上もなく美しい物に見えたのではないだろうか。
彼らはフランスに戻り英国調のスーツシステムを礼賛し、キュロットを着用しなくなった人々にもあいまって強い影響力を持って伝播していった。

カントリージェントルマンは美しかった、すなわちいつ戦闘が始まってもよいように、身・心は鍛錬されていたのである。
この人達の着用するスーツ姿はこれまでの貴族からみると、天と地の差があったのではないだろうか。
宮廷で酒と美食に耽っていた貴族は、梨型すなわち下腹が出ているということ、短足、デブが基準であり、これが一般的であったから驚きである。

英国では1750年頃からポンペイ等の遺跡の発見によって発掘されたアテネのアクロポリスにあった古代ギリシャの大理石の彫刻、 アポロン、ダビデ裸像の美しさが英国紳士の究極の体型となっていく。
この体型にこそスーツ姿がダンディズムとして進化していくのである。
仏国の紳士達もやがて同じ思いにとらわれていく。
紳士たるべく男性の当然の帰着であり、やがて英国流の紳士服飾術が世界に拡大していくことになったのである。