1403linen-resize日差しがまぶしい暑い夏のある朝、私は鎌倉駅の横須賀線ホームで母と電車を待っていた。
特等車(今でいうグリーン車だが)を待っている人の中に、白っぽいスーツに帽子をかぶった紳士がいた。
汗が噴き出すほど暑かったのにその人は涼しげに悠然と立っていた。
「あの人、きっと偉い人なんだ」子供なのにそう思った。

麻の白いスーツに身を包んだあの紳士を、私は特別な人だと思ったに違いない。
その昔、麻は洒落た男のモノだった。

それがいつからか女が麻を着るようになった。
光沢があって通気性がよく、しかも吸水性のある高額な麻が気軽に手に入るようになったのだ。
だからといって麻ならどれでも同じと、思い違いしてはいけない。
上質な麻はやはり美しい。

まだ肌寒い頃に麻が出始めたらすぐに手に入れてどんどん着て洗濯をしたらいい。
硬い麻が洗濯するたびに柔らかくなって女の肌をそっと包んでくれるようになる。
それは、えも言われぬ心地よさだ。

そうして初夏になったらその麻シャツに、緑の風をフワーと取り込んで空気を胸一杯吸うことだ。
麻は海や山のリゾートによく似合う。
そのとき、女の精神は解き放たれ足取りは軽やかに、その上、笑みまでこぼれるようになる。

でも普通の女はいつもリゾートにいるわけにはいかない。
大都会のギラギラと照り返す真夏の日差しに汗がしたたり落ちる、そんな時にこそ麻シャツの出番なのだ。
暑いからこそ、長そでの麻シャツを着て袖を無造作にたくし上げてみよう。
余分なアクセサリーは何もなくていい。
ただ麻シャツを着るだけでいい。
麻シャツはそばにいる男達に贅沢を振りまいてくれる。

Tシャツにはない日常のラグジュアリー麻シャツは女の武器だ。
いつでも、どこでもその威力は如何なく発揮され上等な女へと導いてくれる。

今、リネンシャツは上等な女のモノになった。