ぼく盲導犬、よろしくね

VOL.9 盲導犬の引退

盲導犬候補の子犬が誕生 引退の日

お父さんが電話している。
「はい、わかりました。では明日宜しくお願いします」

電話を切ったあと、お父さんはおもむろに何かを紙袋に
詰め込んでいる。
あれ?それはお父さんが最初に買ってくれたぬいぐるみ。
あ、それは濡らすと涼しく感じる洋服。
ぼくによく似合う色だって、お父さんが褒めてくれたよね。
でも今は冬。なんで急に押入れから出しているんだろう。

「明日からまた出張?それとも旅行かな?」

ぼくはそんなことを考えつつも、忙しく準備するお父さんを
眺めているうちに、うつらうつら眠りにおちていた。
パピーウォーカーの家庭で育ちます
お父さんがぼくに寄り添い、優しく撫でてくれる夢を見ながら。

翌朝お父さんが向かった場所は、盲導犬訓練センターだった。
ぼくの大好きな訓練士さんが、お父さんと長い時間お話を
していた。
やっとお話が終わり、お父さんが立ち上がったので、
ぼくも「よっこらしょ」って立ち上がろうとすると、
お父さんはぼくの身体からゆっくりとハーネスをはずした。

「ありがとう。本当にありがとう。
 お前に出会えてお父さんは本当に幸せだったよ」。

ぼくをぎゅっと強く抱きしめながら、そう話すお父さんの
身体は震えていた。

ぼくはなんだかわからなかったけど、お父さんに抱きしめられる
ことが嬉しくて、しっぽをブンブン振った。
ブンブン振れば振るほど、お父さんの「グッド、グッド」
盲導犬の訓練開始という声は震えてとぎれとぎれになっていた。

そしてぼくは、お父さんが白い杖で歩く方向とは逆の方へ
連れていかれた。

そう、この日はぼくが盲導犬を引退する日だった。


盲導犬は10歳前後で盲導犬ユーザーと別れて引退します。
10歳といっても人間でいえば60歳くらいでまだまだ元気な
年齢です。
少し早めに引退して、引退犬飼育ボランティアの家で家族の
一員として新しい生活を楽しんだり、引退犬のための部屋が
整えられている「盲導犬の里富士ハーネス」で仲間たちと
のんびり過ごしたりします。

晴れて盲導犬に



あの町へ

ぼくと別れたお父さんは、そのまま訓練センターで次の
パートナーになる盲導犬との共同訓練に入る。
たとえベテランの盲導犬ユーザーでも、必ず新しい
パートナーと一緒に訓練を行う。

そしていつも一緒にいたお父さんと別れぼくは、
訓練士さんと一緒にワゴン車で出かけたんだ。


盲導犬を引退次回はいよいよ最終回。
引退した後のぼくの暮らしをお話するね。



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