ニューヨーク出店でつくづく思い知らされたのは、
服飾について知識があるのは、私達の様な業界人だけだと、自負していたが、
あの大味で細部への気配りなど無縁と考えていた彼らの中には、とてつもなく
凄い奴らが居たことだ。

男性自身のあるべき姿を追求をし、自分が他の人からどのように評価されているかを
考え、知ろうとする努力である。多民族で構成されている(UNITED)国であるから、
又、激しい競争に身を置いているから…であるが故にそれでも自分を証明する
手段の一つとして、人格がほとばしる服飾の重要性を認識している。
私は彼らの姿勢に対して畏敬の念すら感じている。

私達の店、商品に対するウェブ上で書き込まれている論評は、
すこぶる好意的で評価の高いものであるが、
メードインジャパンの素晴らしさや、今後の我々の(もっとアメリカを知ること)
勉強への期待に満ち溢れており、これ程までに情緒豊かな商品への期待と歓迎は、想定を超えている。

「胸ポケットが付いていることには失望したが、彼らは直ぐに解決してくれるだろう。」
「生地の光沢、衿の柔らかさは想像もしていなかった。」
  注)弊社では接着していない、昔ながらの綿芯を使っている
「販売スタッフの親切、丁寧さ、
あの小さな店はグレートで、エレガントな店だぞ!一見の価値有り」
と、公平で暖かい様々なアドヴァイスを頂いている。

ニューヨークを、公務や商用で訪れる他国からの来店も多い。
英国、仏国、メキシコ、イタリア等からも是非とも、というお誘いも受けている。
日本人が知らない日本の力を知っているのだ。日本にはすごい力があるのだ。
こんな当たり前のことを、知らなかった自分が情けない。
反省と勉強に拍車を掛けねばならない。

彼らの装いの神髄は『上質なものは、あくまでもシンプルであるべきだ 』
その一言に尽きるという事を知っていることだ。

シャツの胸ポケットに物を入れたら、シルエットが美しくなくなってしまう。
上衣には、沢山のポケットがあるが、上等なスーツのポケットには物を入れない。
なぜなら、型が崩れるということを知っているからだ。

昨今の日本のクールビズシャツブームは、人格を貶めるものである。
シャツの衿が二枚になっていたり、色釦がついていたり、ボタンホールに色糸を
使っていたりする。

ICチップがついている社員証を首から下げているサラリーマン。
せっかく、スーツ、シャツ、ネクタイをコーディネートしていても、
赤、緑の色紐が全て台無しにしている。
便利がよく会社の都合で支給されるものに、何も考えず従う国民性には絶望してしまう。

クールビズもしかり、会社のTopがやるから無批判に右へ倣えである。
服装は自分の都合だけでない。相手への礼儀をはらうべきものと、いう事を忘れている。
会社のTopにある人が絶対に偉く、正しいとは限らないのだから。

まして、洋服の文化など、知識のないかもしれない会社のTopを、模倣するなど
甚だ自分にとって、リスキーな事と思ってほしい。
Topマネジメントの方々についてはこんな事を考えて欲しいものだ。
自社が海外と向き合う時に、服装はどうあるべきか?自己都合だけでよいのか?

外国語を修得する前に礼節だ。服装について考えを巡らせて欲しい。
ニューヨークジェントルマンは、まさにこの事の大切さを知っている。

プロの私達ですら、うかうかしてはいられない。
一方、私たちも、世界基準を越える商品を創り出す為には、
日本人は手先きが器用であるなどではすまされない。
私達と共に世界を目指そうと誓った工場の皆様にも、
現在の技術力だけでよいのか、考えさせられた。

ニューヨーク開店に駆けつけて下さった工場の皆様11社の方々にも、
さらに高いレベルの基準を設定し、挑戦して戴く事になった。

“百聞は一見に如かず”である。
現地を実感した人達は、新たな挑戦に奮い立っている。
体験する重要さが再確認される毎日である。
やってみなければ、進歩はないのだ。