Maker's shirt 鎌倉

貞末タミ子のお洒落ヒストリー

女がシルクをまとう時


さらさらと絹づれの音を耳にするのは心地よいものだ。
昔、宮殿の姫君たちはこの絹づれの音を立てながら、ひそやかにおしゃべりしたり笑ったりしたにちがいない。

私が初めて絹に袖を通したのは成人式の日だ。
「これは人絹じゃなくて正絹だからね」と、母は言った。
きつく帯を結んでもらっているとき「キュッ、キュッ」と音がした。
不思議な気がした。絹鳴りだ。
すでに逝ってしまった母は、そんな高価な正絹の織物を娘のために無理したのだと今になって思う。

そんな風情のある絹の織物に袖を通す機会はめっきり少なくなった。
でも現代の女にはシルクのシャツがある。
軽くて丈夫で柔らかい、吸湿性がよくて通気性がいい、これを理解しているのは、シルクシャツの経験のある女だけ。
シルクシャツを愛用しているのはスペシャルな女だけ。
シルクシャツが自分を美しく見せるという事を知っているのは特別な女だけ。

そして手が届かないとあきらめている多勢の女たち。
ガッカリしないでほしい、すべての女はシルクを着る価値があるのだから。
シルクは、不思議に女をたおやかでつつましやかな心持ちにさせる。
だから特別な日に着てほしい、思い出を作るために着てほしい、幸せな日に着てほしい、そして悲しくて胸が張り裂けそうなときも着てほしい。
鎌倉シャツのシルクはいつもあなたのそばにひっそりと寄り添っている。

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