わたしはVAN、KENTを通じ、グレン・プラッドを取り上げた記憶がない。

KENTを担当していた時(1966~70)に、本当はやりたかった。当時、KENTのスーツは評判がよく、ブランドの中心商品だった。定番のチャコール・グレイのスーツの間に、白黒のチェックが加わったらさぞカッコいいだろう、と思ったが、取り上げる勇気がなかった。

ためらいは、グレン・プラッド・スーツを着て行く場所がないと気付いたから。あのテのスーツを西欧では「タウン・スーツ」と呼び、平日の昼間、街をぶらつく時の服装とされる。例えば、フレッド・アステアが鼻歌まじりで街を歩く服……。そんなしゃれた男が日本にいる? 街がある?

80年ごろ、新生KENTの商品構成にグレン・プラッド・スーツがあったと聞いた。誰に着せるつもりだろう、わたしにはあの伝統柄を着こなす自信はない。いまだに……。

(おわり)

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