小学校低学年の時、歌留多取りで歌の文句の様に覚えた人生訓は、忘れることは無いはずだ。子供心にあの可愛い子虎を捕まえるのには、恐ろしい親虎のいる穴に入らなければ捕まえるのは無理なのだ。

あのリーマンショックは、世の中のパラダイムを根こそぎひっくり返してしまった。
あの日迄、私達は泰平に明日も同じ様に繁栄が待っていると思っていたのだ。
体制の中で、温々とした安眠からリーマンは叩き起こしてくれたのかもしれない。

日本も1993年、バブル崩壊に遭遇した私達は、従来の体制を打ち破り、従来に無い組織運営の在り方を、リストラクチャリングするイノベーションの必要性を叫んだものであったが、その苦しいイノベーションの道半ばにして、好転した経済環境に馴染み安住を繰り返すことに成った。

それでも、イノベーションを訴え続けた人達は、「今、うまくいっているのだから、敢えてリスクを取る必要はない」という体制の圧力である、正論に抗うことができなかった。

あの有名なダンディズムの元祖、ボウブランメルが息子に残した遺言の中に、「息子よ、正論を言う奴には気をつけろ」というくだりがあるのを思い出した。

正論は、間違っていないから恐いのである。誰も否定できないからだ。
しかし、本当に正論によって物事が決まってしまうとすれば、人は何も考える必要性が無くなってしまう。
正論通りいかないから難しいのだ。

脱線するが、正論を主張する上司に出会ったら、それはそれは悲劇である。
「人間は嘘をついてはいけません」
正論であるが、こんな事、誰も出来ないのだ。
誰にも出来ないことを、上司が求めてはいないだろうか?
会社で誰も反対出来ない正論を主張されたら、たまったものではない。

こんな時代に、売上げ10%UPを死守せよ。
言っている本人が信じていなくても、会社存続のためには正論である。理屈を言うことではない。
従来のやり方で展望が開けないならば、現状を打ち破る、従来を全否定するくらいの覚悟と進化へのイノベーションが要求されてくる。

必要なイノベーションは、血のでる様な努力と、現場100回の経験からスタートする。
すなわち、リスクを犯す、全責任を負う、決断と自負、そして熱い情熱と信念が必要だ。

私達、流通業界では、有史以来の継続的な商いのルールを踏襲している。
リスクを分かち合う大勢の仲間取引の中で、延命を計ってきたのである。
しかしながら、この仕組みの作り方に未来が展望出来なくなっている。

私達流通業界は、新しい科学技術による、発明・発見は新素材の発明以外には、見当たらない。
発明・発見は次の技術で塗り替えられてしまう。

そもそも、イノベーションは、生活者のため、その人達が更に求めている
快適な生活や幸せ、そんな潜在的欲求を満たしていく。
それを実現するために、従来にない方法、手段を考え実施する。
それが、生活者のために正しいと証明して行くことが、イノベーションと考えてよいと思う。

すなわち、過去踏襲型の経営を続ける、あるいは、業務を繰り返す。
一見短期的には、リスクは無い様に思うが、人々の潜在欲求が変化している時、長期的なスパンでは計り知れないリスクとなってしまう可能性がある。

標題の「虎穴に入らずんば虎子をず」
リスクを犯すことなく成果を得ることは出来ないのだ。
このノーリスク業務・経営は何も私達流通業界だけではない。

自己防衛のためだけの仕事、そのためには、そこに関係する人たちへの配慮が忘れられる。

自分さえ、自分の会社さえよければ良いのである。
こんなことを長く続けていると、正常な判断、価値基準は喪失していまう。

そもそも、ビジネスは人間を基点として行われるべきものである。
この人間中心の視点を忘れてしまうと、イノベーションは生まれない。
必要とされる、イノベーションは人間中心に物事を考える以外には、生み出すことが出来ないからだ。

何とかして、顧客満足を更に向上させる為には。
あるいは、何とかして、共に仕事をしている関連先に喜んでもらえるためには。そう、考えてその中に自分を投げ込み、次の一手に身からのリスクを背負うことから、イノベーションが生まれる。
現状を打破するには、こうするしかないのだ!

嘆いても、行政や経済環境をうらんでみても、昨日の続きをやっていては、何もかわらない。
人間が行う行為の中で、双方が影響し合い、世の中の営みが行われているビジネスというものは、自己完結することは出来ないのである。

自分の会社さえ良ければ、自分さえ良ければ、そんな思想から未来を見つけ出すことは出来ない。
もっとも、未来は現在の積み重ねであるから、素晴らしい今を積み重ねなければ、理想の未来はやって来ないのである。