ぼく盲導犬、よろしくね

VOL.10 引退後の暮らし

盲導犬訓練士さんが運転する車に揺られて、ぼくはなんとなく
ボーっと景色を眺めていた。いつも一緒だったお父さんは、
ここにはいない。助手席には、お父さんが訓練士さんに渡した
紙袋がポツンと置かれている。その中には、何度もほころびを
縫い合わせてくれた、僕のお気に入りのヌイグルミと几帳面に
たたまれた洋服が数枚。

「大丈夫だよ、もうすぐだから。」
そんなぼくの気持を察してか、訓練士さんが笑って声をかけて
くれた、その時だった。どこかで嗅いだことがある懐かしい
匂いがぼくの鼻先をくすぐった。

「あれ、この匂い、知っている!」
ぼくのしっぽは、無意識に大きく揺れ始めた。
「さすがだな~、もう気づいたか」

「知っている、知っている!そうだ!!
次の角を左に曲がるんだよね」
そんなぼくの気持ちに応えるかのように、車は左折して
ゆっくりと止まった。

見覚えのある一軒家。そして門の外でぼくの名前を呼んで
手を振る懐かしい人たち。
ぼくのパピーウォーカーだったお父さんとお母さんがいる!
その横にすっごく背が高くなったお兄ちゃんもいる!

車から降ろされたぼくをお母さんは「お帰りなさい!」と、
涙いっぱいためながら、抱きしめてくれた。

ずっとありがとう

ぼくは今、パピーウォーカーのお父さんお母さんのおうちで、
暮らしている。もうハーネスをつけることはない。
この頃、耳が少し遠くなったぼくは、朝夕のお散歩が終わると、
お気にいりの縁側に寝そべって、一日の大半を過ごす。

そんなある日、玄関でお母さんが誰かとお話しているような声が
聞こえた。
「今日は遠くまで、よくいらしてくれました。
 いま、縁側でお昼寝中なんです。」

小春日和の柔らかい日差しを浴びながら、うつらうつらしている
ぼくを誰かがそっと撫でた。それはずっと前から知っている
温かく優しい手。ぼくが、世界で一番大好きな手。

「お父さん!?」

そう、今ぼくの目の前でお父さんが笑っている。
「久しぶりだね、元気かい?」

懐かしい声、懐かしい匂い。何もかもが前と同じ。

お父さん、会いに来てくれたんだね。
ぼくは、パピーウォーカーのおうちで幸せに暮らしているよ。

時々、お父さんにシャンプーをしてもらう夢を見るよ。電車に乗る
夢もたまに見るよ。たとえ離れ離れに暮らしていても、ぼくは
幸せだよ。だってぼくが出会う人たちは、みんな心優しい人たち
だから。

しっぽを大きく振りながら、一生懸命話すぼくの心の声に
答えるかのように、お父さんは「グッド、グッド」と言いながら、
優しく何度も撫でてくれた。


これでぼくのお話は、終わりです。
皆さん、約1年間、ぼくのお話を聞いてくれて、ありがとう
ございます。

僕たち盲導犬の一生は、多くの方の愛情とご理解によって、
支えられています。もし街で盲導犬を見かけた時に、ぼくのお話を
思い出していただけたら、嬉しいです。

これからも、どうぞぼくたち盲導犬の応援をよろしくお願いします!

*お話はすべてフィクションです。
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