復活したトラッド素材のひとつにツィードがある。もっともツィードは毎秋になると
本命視されるので、流行ではなく定番素材というべきかもしれない。

ツィードには忘れられない思い出がある。生まれて初めての「セビロ」がツィードだった。
大学生になり、色気付くとおしゃれに興味がわく、モテたいためだ。
背広を持っている友人がうらやましかった。セビロが欲しい。だが、そのころ(1950年代半ば)
背広は社会人になってから着るもの、学生は学ランさえあればいい時代。

親に頼み込んでセビロをつくってもらった――当時、既製服のレベルは低く、
ほとんどの男性は注文服を着た――。父の洋服店に発注したまではよかったが、
若い人はスーツより替え上着がよろしいでしょうと、ツィードのジャケットが出来てきた。
何も分からないから大喜びで、学ランの黒ズボン、兄からもらったネクタイを合わせた。(つづく)