靴で思い出すのは「靴磨き」だ。あれはわたしの趣味のひとつ。ピカピカにすると気分がいい。趣味と実益を兼ねた行為?

靴磨き(そうそう、インドの神様も靴磨きをすすめていた。願いが叶うゾウと)に目覚めたのは高校3年、バンド活動を始めたころだ。プロのバンドマン(1953年頃、ミュージシャンとは呼ばなかった。バンドマンかバンド屋だ)は申し合わせたようにピカピカの靴―それも黒―を履いていた。カッコよくて真似たが光らない。靴も磨き方も悪かったのだ。

ある時、先輩のバンドマンに質問した。「あの人に磨いてもらえ」と教えてくれた。

その人は日比谷にあるホテルの地下1階にいた。町の靴磨きと雰囲気からして違う。ちっぱなアームチェアが置いてあり、座って磨いてもらうのだ。緊張し恐る恐る靴を出した。たっぷり時間をかけて仕上がった靴はまるで別物。のぞいたら顔が映るくらい光り輝いていた。

(つづく)