そんなある日、石津謙介社長から「VAN浴衣をやろう」と言われた。浴衣となると生地の仕入れから縫製まで別ルートだ。あれこれ準備に手間取ったが、なんとか発売にこぎつけた。

柄は3つに絞り、サイズはM寸のみとした。「畳紙(たとう)=厚手和紙をつかった着物用パッケージ」にVANのロゴを入れ、数量限定で販売した。銀座「テイジン・メンズ・ショップ」のウインドウにディスプレイされたのを見た時は苦労が吹き飛ぶ思いがした。

VANは悪ノリして「VANゆかた奇席」を開いた。「イイノ・ホール」(千代田区)という大ホールを借りたのだから、いま思えば素人のくせにいい度胸をしていた。出演は円鏡、志ん朝そして円生という大物。

VAN浴衣を何着つくったかまでは覚えていないが、完売し、話題になった。いま思えば1960年代後半のVANは楽しい会社だった。やりたいことをやらせてくれ、こちらも失敗など考えたこともなかった。

(おわり)


MEN’S CLUB 第55集(1966年7月)より