いまも続くアメリカ走向の始まりは、1945年、進駐軍放送で聞いたドリス・デイの「センチメンタル・ジャーニー」だった。

戦時中の音楽といったら軍歌、国民歌謡くらい。アメリカの音楽は敵性音楽となり、聞いていたのがバレたら逮捕された暗黒の時代。戦争が始まると「鬼畜米英」と教え込まれたが、敗戦と同時に進駐してきた米兵は赤鬼ではなかったし、子どもたちに甘いキャンデーや甘い歌声を届けてくれた。

曲名や歌手の名前を兄から教えてもらい、わたしはドリス・デイ・ファンを自認していた。50年、映画「2人でお茶を」で彼女にひとめぼれ。ショートカットの金髪、カッコいいファッション、そして明るく気さくな人柄。ドリス・デイは50年代の米国を代表する理想の女性像だった。

彼女のおかげでジャズが好きになり、アイビーにはまった。おかげでこの年になっても「文京のアイビーじいさん」をやっている。

(おわり)