男が帽子をかぶらなくなったのは、先の太平洋戦争後のことだ。
戦後も10年経ち、生活に余裕が出始めると、戦前のおしゃれを体験した人たちが
パナマなど、サマーハットをかぶり始めた。

わたしがVANに入社した1961年、
夏になると全社員帽子をかぶって通勤していたのを思い出す。
戦前派の中年はもとより、10代の若手までが着帽した。
入社以前から帽子好きだったので、喜んで帽子をかぶった。

そのころでもパナマは高価だったので、もっぱら安物のココナッツ(ココやし)か
ラフィアでがまんした。その代わり「リボン」には凝った。
黒のリボンを外し、マドラスやバティックなどの柄物を使った。
見た目もおしゃれっぽく、安物の帽子を上等に見せてくれた。

帽子をかぶる素晴らしい習慣は、VANが日本橋から青山への移転を機に消滅した。
東京オリンピックの年、64年夏のことだ。理由は不明。
青山の空気になんとなくマッチしないことを感じ取ったからではないか。
(おわり)

150731