西欧と比べて靴の歴史が浅いわが国では、靴に対する価値観に差があるのは当然。

明治維新以降、西洋靴は別名「窮屈袋」、面倒な「袋」と思われてきた。たしかに草履や下駄のように足がオープンな履物しか知らなかった人たちにとって、靴は窮屈で面倒な代物だったに違いない。

生活の西欧化に伴い、着物は洋服、下駄は靴へと変わった。だが、変わらないのは家に上がる時に靴を脱ぐ習慣。西欧人は土足のまま家の中に入る。 

靴は普及したが、家に上がる時に靴を脱ぐことだけは変えられなかった……いまも。その都度、靴ひもを緩めたり締めたりする「面倒な」作業と共に。

サイドファスナーは画期的な発案だった。「脱ぎ履きカンタン」になった。だが、あれはどう見ても「美しくない」。「機能」を優先するか「美」をとるか、善しあしではない、自分はどちらが好きかの問題。わたしは嫌いだ。

(おわり)



『座敷即席一口噺し』伊藤竹次郎 1885年